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アフリカで横行する人種差別の正体とは

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アフリカで横行する人種差別の正体とは

<コラム第4回:アフリカで横行する人種差別の正体とは>
ケニアで暮らしている中で、最もしんどいと感じることの1つが「人種差別が酷い」ことである。日本でも少なからず差別というものは残っているし、これまで訪れた約20カ国でもアジア人差別を経験したことはあった。しかし、ケニアでのアジア人差別は他国とは比較にならないほど卑劣である。

ただ、それと同時に感じるのは、人種差別が平気で許容されてしまう社会が抱える根本的な問題や背景である。ケニアという国が経験してきた歴史や現状の社会を知れば知るほど、理解はできなくとも、確かに人種差別を助長する出来事や制度が存在していたように思う。

個人的にはどんな理由があったとしても、他者を不当に差別するという行為は許せない。ただ、ケニア人を見ていると、差別発言には何かしらの背景があることが多く、場合によっては簡単に加害者にもなり得ることを実感させられた。こうしたケニアの生活の中から、差別の正体について考えてみたい。

ケニアで経験する差別とは

ケニアで経験する差別は基本的にワンパターンである。道端を歩いていると、「チャイニーズ!」とか「ニーハオ!」とか「チンチョンチャン!」と大声で言われる。中にはカンフーのようなポーズをしながらからかうような素振りを見せたり、しつこく後ろをついてきて差別用語を浴びせてくる人もいる。

私たちがアフリカの人々を区別できないように、彼らが我々をどこの国出身か判別できないのは理解している。ただ個人的には、どこの国の出身かをまず聞くのが最低限のマナーだと思うし、そもそも道端で外国人の出身国を大声で言う行為が全く理解できない。(ちなみに、同僚に「もしあなたが日本に行っても誰も「アフリカン!」とか「N***!」とか言わないよ」と話したらビックリしていた。)

百歩譲って、国名やその国の挨拶を言ってくるのは良いとしても、アジア人への差別用語や目を引き伸ばす仕草をする人を見ると、さすがにカチンとくるものである。ケニアのために貢献したいと思って異国の地で日々努力しているのに、こうした態度を取られてしまってはモチベーションに響くのは当然である。

こうした差別はアフリカ以外でも存在はするのだろうが、ケニアでは遭遇する頻度がかなり高い。特に人が集まる市場やバス乗り場では、どこの都市だろうと数十メートルおきに大勢から酷い言葉を浴びせられる。おそらく、ケニアに来てから一度も人種差別に遭遇しなかった日は1日もなかったと思う。

こうしたエピソードを各国の隊員間で話すと、特にサブサハラの地域では同じような事象があると聞く。ケニアに限らず、アフリカの貧困国ではこうした問題は根深いと思われる。

マチャコスのマタツステージ
マタツ(乗り合いバス)の停留所では、人も多く差別に遭遇する頻度も多い。

ケニアで発生する差別のパターン

差別してくる人々の身なりや表情を見ていると、投げかけられる言葉は同じでも、2つのパターンがあることが見えてくる。

パターン①:明らかに人を馬鹿にしているパターン

しつこく後をついてきたり、ニヤニヤしながら言葉を浴びせてくるときは、明らかに差別の意識を持っていると思われる。このパターンは一番厄介で、無視していても一向に止めないし、精神的にも一番ダメージが大きい。

こうした人々が存在する理由として、個人的には2つあると思う。

1つは、アフリカに住む人々の極端な保守性が関係していると思う。アフリカでは内向的な性格の人が多く、伝統的な価値観を重んじている印象がある。そのため、他地域や外国の製品や文化が流入してきても、怖がって試そうとしない。だから、ケニアの人々は外国には無限の食文化があるにも関わらず、年中たった数種類の食事だけで生きているし、論理的な学術論文や中立的ニュースより周囲の噂話を信用する。伝統を重んじることにもちろん良い面もあるが、外部からの情報や文化に触れる機会が少ないことで、近代的な倫理観が欠如している人々は想像より多い。

彼らは昔からの価値観にきつく縛られているので、人種差別に限らず、少数派民族やLGBT、障害者や貧しい女性など弱い立場の人やマイノリティに対しての人権を重んじるという感覚がない。そのため、特に自分より立場が低いとみなす人々に対して、不当な扱いをする場面をよく目にする。アフリカで圧倒的なマイノリティであるアジア人もそのうちの1つだと考えている人々は多いのだと思う。

こうした差別は、植民地時代の分割統治が影響していたり、単に宗教上の価値観が原因だとも考えられる。そのため、一概に理由を特定することは難しいが、ただ確実に言えることは、「(本人は自覚していなくても)ケニア人のほぼ全員がこうした差別の意識を持っている」ということである。だから、普段一緒に過ごしている気の良い同僚の中にも、「LGBTは気持ち悪い」とか「○○族は汚い民族だ」とか平気で口にするし、周りの人々もそうした発言を気に留めることはない。

こうした背景から、アジア人もマイノリティの一例として見下せる人種だと考える人々もいるのだろう。

2つ目は、「中国の開発により何かしらの不利益を被った人々」の腹いせである。ケニアでは中国の影響が年々強くなっており、街には中国製品が溢れている。「アジアで知っている国は中国のみ」という人や、「日本は中国の一部」と考えている人も少なくない。

ここまで影響が大きいと中国への恩を感じている人が多いのかと思いきや、意外と中国を嫌悪している人の方が多い。その背景としては、「ビジネスとしてのアフリカ開発」をする中国の姿勢にある。例えば、開発のために多額のお金を貸し付けて、債務超過に陥れば途上国の権益を奪い取る「債務のワナ」が問題となっている。

他にも、アフリカの人々への横柄な態度や(中国に留学経験のある同僚によると、中国本土での黒人差別はかなり酷いらしい)、現地の雇用や持続可能性を無視した開発方法に不満を持つ人も多いようだ。実際に私が活動している水道会社では、新しい浄水施設が中国の支援によって建設されているが、現地人がボロボロの服を着て泥だらけになりながら肉体労働をしているにも関わらず、現場監督の中国人は堂々とタバコをふかしながらひたすらTikTokを観ていた。

こうした背景から、中国に不満を持つ人がアジア人全体に差別用語を投げかけているパターンも多いように感じる。逆に、日本人であることを伝えると急にフレンドリーな態度に変わる人も、ケニアでよく見るパターンである。

パターン②:差別用語であることを知らなくて、悪気なく差別用語を発するパターン

ケニアでは、罪の意識なく差別用語を発しているパターンも実際に存在する。根本原因は明らかに「教養不足」である。

先述した通り、極度に保守的なケニアでは外国の価値観が流入しづらい。携帯電話普及率が高く、インターネットが自由に使えるこの時代に到底理解しがたい話ではあるのだが、ケニアではスマートフォンを持っていても「googleでの検索方法」すら知らない人が存在するのである。子供の時からパソコンや携帯電話に触れてICT教育を施されてきた日本人と違い、大人になってから携帯電話を急に渡されても扱い方が分からないのである。国民全員が「機械が苦手なお年寄り」だと想像してもらえばイメージしやすいと思う。

そんな状況だから、世界で何が起こっているとか、外国ではこんなものが流行っているとかすら知らないので、「人権問題」という価値観に出会うことがない。(もしこうした情報が入ってきたとしても、保守的な彼らがこうした価値観を受け入れるのかは到底疑問だが…。)

だから、ケニアでは一度友達になった人でも、他人に対して平気で差別用語を使ってくる場合がある。そうした人に「お前は差別主義者だったのか」と怒りをあらわにすると、「そんなことはない。本当に申し訳ない。知らなかった。」と謝罪されるという一連のパターンを何度も経験した。

大人がこんな教養レベルなので、子供はそんな大人を見て平気で差別用語を発してくる。大人は全く注意しないので、子供が集まっている場所に行くと差別用語の合唱が起きる。恐ろしいことに教員レベルでも罪の意識がない者も多く、こうした事象が発生しても全く止めない。

加えて、ケニアの教育レベルは日本に比べてかなり低いレベルにあるし、そもそも外国人が珍しい社会なので学ぶ機会もないのだろう。これは差別用語に限らず、あらゆる教養が不足しているので仕方ない面もある。どれくらいかと言うと、彼らはポケモンやディズニーを知らないし、冷蔵庫や洗濯機の扱い方が分からないし、ピザやハンバーガーすら見たことがない。

こうした人々に、「チンチョンチャンは君たちにNワードを言うようなものなんだよ」と教えても、"Nワード"を知らないので不思議そうな顔をされる。それくらい一般常識の範囲が違うので、このような悪気のない差別主義者が生まれてしまうのだと思う。

ケニアの子供たち

差別への対応の仕方

毎日のように経験する差別への対応方法は隊員によって様々である。そして、未だに正解は分からない。ここでいくつかのパターンを紹介しよう。

#対応方法詳細
1無視するおそらくこの方法が多数派。一番楽で時間を無駄にしない方法。相手にしてほしくて差別してくる相手には有効。ただし、「アジア人は言い返してこない」とナメられる原因にもなる。
2自分は日本人であることを説明する基本的に耳にする差別用語は中国人に対するものなので、日本人であることを伝える。日本は比較的信頼度が高いこともあり、態度を改める人も一部存在する。
3差別がいけないことだと教える子どもや教養がない大人は差別用語だと分からずに差別してくることもある。そうした相手には有効だが、毎回これをやるのは骨が折れる。
4強い口調で言い返す「黙れ!」や「差別主義者が!」と強い言葉で言い返す。ケニア人は意外と臆病なのですぐに黙るし、言い返すだけなので労力もあまりかからない。ただし、トラブルの原因になる可能性もある。

私の場合は、ケニアに来た当初は面倒くさくて#1の方法で全て無視していたが、途中でイライラしてきたので#4の方法に変更した。特に「お前は差別主義者だ」と言うと、プライドが高いケニア人は周囲の人にレイシストだと思われたくなくてすぐに行動を改める人が多いので、効果的だと感じている。

おそらく、一番良い方法は#2と#3なのだと思うが、私は毎回こんなことをやってられるほど忍耐強くないので、実践できていない。

ある先輩隊員は、差別に遭遇する度に「あなたが差別用語を浴びせられたらどう思う?」とか「あなたがウガンダ人やタンザニア人と間違えられたらどう思う?」と諭していた。ケニア人はロジカルに考える能力がほとんどないので、自分たちだけで考えることはできないが、こうした問いに対しては口々に「イヤな気持ちになる」と答えることができていたので、この方法は一番有効かと思う。

どちらにしろ、個人的な意見としては「差別に対しては何かしらのアクションを取る」ことが重要だと考えている。一番やってはいけないのは、無視して放置することだ。これは、彼らの人種差別を容認することであり、別の日本人を見たときに必ず繰り返す。これは意図的だろうとなかろうと、同じ嫌な思いをする人を増やしてしまうことになる。

また意図的でない人にとっても、自分の発言が差別だと分からないまま、一生加害者として生きていくことになる。これが子どもであれば、なおさら悲惨な人生を送らせてしまうことになる。

先述した通り、いかなる理由があっても差別は許してはならないと思う。ただ、ケニアで差別が横行している背景には、必ずしも現地の人だけに全責任があるとは言い切れない部分があるのも確かだ。もし、アフリカ各国でこうした差別に遭遇したら、対応の仕方はもちろん各々にお任せするが、少しだけこうした事情があることを思い出していただければと思う。

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