JICA海外協力隊の金銭事情-気になる給料や待遇は?
<コラム第8回:JICA海外協力隊の金銭事情-気になる給料や待遇は?>
JICA海外協力隊への応募を悩んでいる人にとって、二の足を踏ませている最大の理由は「お金」だと思う。協力隊経験はキャリアアップにほとんど直結しないにもかかわらず、出世や収入アップの機会を捨てて途上国でボランティア活動に行くというのはそう簡単に決められるものではない。
しかも、ボランティアだから当然と言えば当然なのだが、期間中に得られる手当は会社員や公務員として働くよりもかなり低いのが実情である。
しかし、多くの人がその仕事を捨ててでも協力隊を志願するのは、お金には代えられない経験を得ることができるからだろう。実際、途上国の地域コミュニティの内部まで入り込み、現地の生活に限りなく近い経験ができるのは協力隊事業くらいである。
コンサルティング企業を休職してケニアに来た私自身、この2年間でクラスアップの機会を失い、同期入社の友人たちからは出世の面で大きく後れを取った一人だ。しかし、日本では絶対にできない経験ができたこの期間を全く後悔していない。
応募時は昇給やキャリアを諦めることに大きな覚悟が必要だったが、今では当時勇気を出して応募して良かったとさえ思っている。
今回は、当時の私のように待遇面や制度面を理由に応募をためらっている人に向けて、フラットな目線でJICA海外協力隊の金銭事情を綴っていきたいと思う。
JICA海外協力隊で得られる収入
JICA海外協力隊がJICAより受けることができる主な手当は以下のとおりである。(2022年3次隊時点)
手当 | 支給額 | 備考 |
---|---|---|
支度料(赴任に伴う手当) | \90,000 | 日本の口座に振り込まれる。 |
移転料(帰任に伴う手当) | \87,500~\123,250 | 各国に応じたUSD換算額が現地口座に振り込まれる。 |
日当(公務時の手当) | \3,200~\5,200/1日 | 各国に応じたUSD換算額が現地口座に振り込まれる。 |
国内手当(隊員期間中の手当) | \40,000/月(訓練期間中) \55,000/月(派遣期間中) *シニア案件は\75,000 | 日本の口座に振り込まれる。 |
完了金(活動完了後に支払われる手当) | \20,000 | 日本の口座に振り込まれる。 |
現地生活費 | $500~$700/月 | 現地口座に振り込まれる。 |
基本的に赴任国では現地通貨とUSドルの銀行口座を開設することになる。そこに現地生活費が3カ月ごとに振り込まれ、通常はこのお金でライフラインや食費、交通費など大半の生活費を支払うことになる。現地生活費は、現地の物価や為替の状況に応じて毎年1回改訂が行われる。
ケニアの場合は半年に1回ほどのペースで公務により首都ナイロビに上京する機会がある。公務は基本的に健康診断や活動報告会などのイベントを指す。この場合は僅かながら現地口座に日当が振り込まれるため、このお金も生活費に充てられることが多い。
活動にお金がかかる場合は、「現地業務費」という制度を利用するとJICAから補助を受けられる場合もあるが、申請方法の複雑さや承認基準のあやふやさから、隊員にめんどくさがられあまり使われることはない。そのため、活動の支出は自腹で現地生活費から出している隊員も多い。
JICA海外協力隊で得られる福利厚生
JICA海外協力隊が受けられる主な福利厚生は以下のとおりである。(2022年3次隊時点)
手当 | 詳細 | 備考 |
---|---|---|
移動費 | 赴任・帰任時の日本⇔任国や公務時の任地⇔事務所間の交通費 | 任地によって空路・陸路などの場合あり。 |
赴任・帰任・公務に関わる宿泊費 | 赴任・帰任時や公務時の首都滞在費 | 任国によって、ホテル・隊員寮などの場合あり。 |
住居費 | 任地での住居費 | デポジットや退去費用、一部の家具購入費は含まれない。 |
現地語学訓練費用 | 現地で語学を勉強する場合の手当 | 赴任後約2週間ほど語学学校に通学する。 |
一時帰国費用 | 忌引・療養・避難等のやむを得ない事情が発生した場合の帰国費用 | 状況に応じて支給額や帰国期間に条件あり。 |
配偶者や子女の呼び寄せ費用 | 家族が隊員の任地を訪問するための費用 | 状況に応じて支給額や帰国期間に条件あり。 |
医療費用 | 健康診断や現地医療費の費用 | 病状に応じて支給額に条件あり。 |
基本的に公務に伴う移動費や宿泊費は支給または手配される。上記に加え、現地滞在における査証手続きや費用に関しては全てJICAが対応してくれる。
また、生活費のうち家賃に関してはJICAが支給をしてくれる。住居に関しては、国によってJICAが大家と契約する場合もあれば、隊員が個人で契約する場合もある。
ケニアの場合は個人で契約するパターンだった。ケニアの場合は入居時に支払うデポジットは基本返金されないし、日割り家賃の支払いに応じてくれるオーナーはほとんどいないが、JICAはこれらを補填してはくれないので多少自腹を切る必要がある。
JICAが住居自体を用意してくれる場合は、これらを含め全て事務所が大家とやり取りしてくれるらしいが、家賃支払自体はJICAから支給された金額を自分で払うこともあるようだ。
家具・家電に関しては入居時に全て備え付けの国もあれば、全て自分で購入しなければならない場合もある。モロッコやエジプトでは、冷蔵庫・洗濯機・クーラーなどの基本家具に加え、シャンデリアやオーブンまで備え付けられた家に住む隊員もいた。一方ケニアでは、家電どころか机や椅子すら自腹で用意しなくてはならない。工業がほとんどないケニアでは、家電が日本の3~5倍の価格で売られているため購入自体を諦める隊員も多い。
福利厚生の中には、家族の呼び寄せ制度や語学訓練などの制度も存在している。結婚している隊員の中には、実際に制度を利用して家族を現地に呼び寄せている人もいた。
医療費に関しては、病気になった場合の受診料や薬代は無料だった。一部、歯科検診等などは3割負担の場合もある。(一度個人で立て替えて、共済会に申請すると後ほど返金される方式。)
JICA海外協力隊で得られるお金は十分か?
結局のところ、金銭的な余裕は国によってかなり異なる。物価は任国によってかなり差があるし、政情が不安定な国では現地通貨の為替状況やインフレ率によって、派遣期間中でさえ環境がかなり変わる。
例えば、世界一暑いと言われるジブチでは多くを輸入に頼っているため、物価がかなり高いのだそう。だから暑いからと言って、クーラーをつけっぱなしにしていると電気代がとんでもないことになるらしい。かといって、生活費は他国より$100程度高いだけである。
財政が不安定なケニアでは度々増税や突発的なデモに影響を受け、流通が滞って日用品の価格が急に上がったり、逆に現地通貨安が進んで余裕が生まれたりすることもあった。
また、隊員の任地や生活スタイルによって支出額もかなり変わってくるだろう。都市部に住んでいる隊員は高い物価に悩まされながら生活することになるし、逆に田舎の隊員は月に数千円しか使わなかったという話も聞いたことがある。
あくまでケニアの中都市に住む私の例であるが、結果的には「現地生活費だけでは足りなかったが、日本国内の口座から送金したことはなかった」。というのも、協力隊員は赴任時に約$3,000を現金で持参するように言われる。これは、最初の現地生活費が赴任後数か月後に振り込まれるためだ。この持参金とJICAからの支給額が現地で使う金額となるが、帰国までにほとんどすべてのお金を使い切ってしまった。
つまり、「現地生活費の総額+日当総額+移転料+$3,000」が私が任期期間中に現地で使った金額である。ケニアの現地生活費は$565/月だったので、1年8カ月の滞在で約$15,000を使用した計算になる。
ちなみに、私の場合は隊員の中でも「金遣いが荒いほう」ではあった。例えば、私はケニアの現地料理が全く口に合わなかったため、高価な外国食材を購入し毎食自炊していた。また、多くの隊員が購入をためらう冷蔵庫や洗濯機なども購入していた。
途上国は先進国より物価がかなり安いイメージがあるかもしれないが、それは現地の人が購入するものだけで、それ以外はむしろ日本より高い。しかし、私は精神衛生を良く保つためにもストレスになるモノは全て排除していた。
一方で、隊員の中には家電を一切買わずに原始時代のような生活を送っている人もいたし、現地食が好きで毎日地元の安いレストランに通っている人もいた。こうした生活を送っていれば、かなり支出は減るのではないだろうか。
隊員の生活スタイルにはかなり差があるため、現地生活費がかなり余って帰国時に持ち帰ることができる人もいるし、お金が足りなくなって日本口座から送金する人もいる。しかし、実態は私のようにちょうどよく使い切るくらいの人が多いと思う。
一方で日本口座に振り込まれる手当を見てみると、訓練を含めた2年間で合計約150万円を得た。活動中に生活費として使うことはなかったので、ほぼその全額を貯金できたことになる。もちろん、普通に日本で働いて得られる貯金よりはかなり少ないだろうが、ボランティアという身分を考慮すればもらえるだけありがたいと思う。
また、私の場合は会社を休職し現職参加として協力隊活動をしていた。会社の好意で保険料や年金等の出費は補填してくれていたので、特に自分で支出したお金はなかったこともありがたかった。
1つ金銭面で欠点だと思ったことは、証券会社の口座を維持できないことである。長期間外国に居住する場合、ほとんどの場合NISAを含めた株式や債券の取引ができなくなる。有価証券の売買によっても収入を得ていた私にとっては、これも結構な痛手ではあった。
よって、JICA海外協力隊は「高収入は得られないが、マイナスになることはない」というのが結論だと思う。ボランティアという立場上、得られる金額も大きくないし、その後のキャリアに影を落とす可能性もある。だから、個人的には出世や収入を気にする人はJICA海外協力隊に向いていないと思う。
しかし、何より協力隊活動はお金には代えられない経験を得ることができる。途上国で一人で生き抜く体験というのは誰でもできるわけではないので、業界によっては帰国後に付加価値の高い人材として重宝される可能性もある。
結論、金銭面を理由にJICA海外協力隊を諦めてしまうのはもったいないと思う。一度きりの人生、ぜひやりたいことにチャレンジしてみて欲しい。
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