アフリカは本当に最後のフロンティアなのか
<コラム第11回:アフリカは本当に最後のフロンティアなのか>
高い経済成長率と人口増加率を維持するアフリカ各国のプレゼンスは年々高まっている。将来的にはアフリカ大陸の人口が世界人口の4分の1を占めると言われており、今後は益々影響力を強めていくだろう。
そんな有望な国々を先進国は放っておくはずもなく、彼ら(日本も含む)は競うようにアフリカ各国に投資している。それは、外交上の影響力を保ちたいという思惑はもちろんあるだろうが、実際にビジネスの面でも将来的なリターンが大きいことは間違いないだろう。
一方で、この地域に問題は山積している。植民地政策の終焉後に各国が独立してからというもの、世界中の国々が数十年にわたって莫大な支援を続けてきた。しかし、絶対的貧困に苦しむ人々の多くは今なおサブサハラアフリカに集中し、最低限の健康や安全を保障できない人々がたくさん存在する。
こうした状況は、調べれば数値やデータ上の実態は把握できるものの、実際に現地で見るものとは別物である。私もJICA海外協力隊としてケニアの地方に約2年間住んだが、イメージしていたものと目で見たものには一定の違いがあった。
今回はあえて定量的なデータを用いずに、実際にケニアの地方で現地人に限りなく近い生活を送った者として感じた「アフリカの可能性」について考えてみたい。
アフリカの可能性
都市部の経済成長
実際にケニアに住んだ実感として、都市部の経済発展が著しいのは事実だと感じる。ナイロビは常に高層ビルの建設ラッシュで、どこでも工事の音が聞こえてくる。
外国の支援で比較的綺麗な道路が建設され、ショッピングモールや外国料理店などが至る所に立ち並んでいる。東南アジアの首都と比べるとまだまだという印象だが、日本の中都市くらいの発展を遂げているようには見える。
ケニアはナイジェリアや南アフリカと並んで、サブサハラでは強い影響力を持っている国であり、外国からの投資も大きい。人口も安定的に増えていて、平均年齢も低いので、しばらくこの勢いは続くのではないだろうか。
最近では若者が外国の価値観に触れる機会も増え、グローバルな視点を持ったリベラルな人材がスタートアップを立ち上げるといったこともよく聞く。特に都市部のケニア人と話していると、流ちょうな英語を話し、専門的な知見を持ち合わせている人は多い。将来的には世界的なユニコーン企業がサブサハラから生まれるだろう。
感覚的ではあるが、この成長は数十年先を見通しても留まる気配はなさそうで、長い目で見ても魅力的な投資先であることは間違いない。
このことは、程度の差こそあれど、多くのアフリカ諸国でも同じことが言えると思う。私はナイロビ以外にはキガリ(ルワンダ)にしか行ったことがないが、首都は別の国かと思うほどの発展を遂げていた。インフラが整っていて、人々も世界基準の感覚を持ち合わせているように感じた。
他国の協力隊員の話を聞いていても、サブサハラの都市部のエネルギーに圧倒されるといった話はよく聞く。事実、外資企業のオフィスや工場がどんどん進出していて、首都にいると外国人の実業家や駐在員も多い。
豊富な資源
アフリカに行ったことがない人と話していると「アフリカは灼熱の大地で人々は飢餓に苦しんでいる」というイメージを聞くことがある。もちろんそういった土地があることは嘘ではないが、アフリカ大陸の大半は豊かな土地である。
まさにこれこそが外国がこぞって支援をする理由の一つだ。本来のアフリカ大陸は肥沃な土壌と豊富な資源が存在する。だから、豊富な食べ物もあるし、大量の天然資源が眠っている。
ケニアでも、収入が少なくて教育費や医療費の捻出が難しい家庭を見ることが多かったが、食べるものに困っている人はほとんどいなかった。人々は自分の畑と家畜を持っていて、最低限のトウモロコシや野菜は確保できていた。
資源の面で言うと、ケニアには地熱資源が豊富で、JICAの支援で地熱発電所が建設されてから発電量の多くを賄うようになった。未だに眠っている鉱物資源も豊富で、現地の新聞では「〇〇で鉱物資源が採掘された」なんてニュースもよく目にする。
海岸沿いやビクトリア湖畔では水産物が採れるし、標高が高い地域では恵まれた気候を活かしてコーヒーや茶の栽培が盛んである。これらは世界中に輸出され、我々日本人も多大な恩恵を受けているのである。
そしてなにより、豊富な資源とは裏腹に未開拓の領域が非常に多い。未だに現地民による非効率的な手法のビジネスが多いため、手を入れられる部分はたくさんあると感じる。これこそが「最後のフロンティア」と呼ばれる所以なのだろう。
可能性を阻害するリスク
地政学リスク
おそらくアフリカでビジネスをするうえで、最も大きいリスクは地政学的リスクではないだろうか。外務省の危険度マップを見ても、アフリカは真っ赤に染まっている。
実際、その中でも最低限の注意を払えば活動できる場所はある。しかし、先進各国と比べれば様々なリスクがあるのは間違いない。大半が危険度レベル1のケニアであっても、夜間に外を出歩くのは危ないし、ナイロビは昼でも毎日タクシーで移動する生活だった。
しかも、政府に対して不満を抱く人々が不定期にデモを行ったり、ストライキを敢行したりする。ケニアのデモは、タイヤが燃やされたり、デモ隊と警察官の衝突があったりとかなり危険なので、そういう日は全ての店がシャッターを降ろし、丸一日全てのビジネスが止まってしまう。
Uberドライバーがストライキをしたら通勤できなくなるし、医療従事者がストライキしたときは公立病院が1か月以上サービスを止めてしまった。空港職員がストライキを起こし、その日のフライトが全て延期されたこともあった。
こうしたリスクは、社会情勢が不安定なアフリカではよく起こりうる。もっと影響力がある事件となると、ガボンやニジェールで発生したクーデターも記憶に新しい。どこで何が起こるか分からないというのは、多くの経営者を悩ませていることだろう。
こうした大きな事件が頻繁に起こらなくとも、個人レベルの危険は毎日付きまとう。交通ルールが皆無のケニアでは交通事故の発生比率が日本とは段違いだし、何かあっても医療レベルはかなり低い。
街を歩いていると肌が白いだけで目立つため、ひったくりやスリの標的になりやすい。アジア人に対する人種差別やセクハラも酷いため、精神的苦痛も大きいだろう。企業にとって、こうした土地に駐在員やその家族を送ることは悩みの種になる。もし派遣をすることになっても、従業員を守るための高いコストが必要になるのである。
現地との関わり方
ケニアで起業した方々と話をすると、苦労したこととしてよく聞いたのが「慣習の違い」だった。ケニアの例だと、「警察や政府が汚職だらけだから難癖付けて税金や罰金を徴収してくる」とか「従業員がお金をくすねる」といった事象が多かった。
確かにケニアは汚職が酷い国で、私が活動している会社でも、就職するにはコネクションと賄賂が必要だと聞いていた。社内に評価制度は一切存在せず、能力は全く関係ない。同僚によると約20万円の賄賂がなければ管理職にはなれないということだった。
空港では外国人が警察に難癖付けられて賄賂を要求されるという話をよく聞く。公共交通機関ではドライバーが道端の警察官に何かを言われてお金を渡している光景は日常茶飯事だった。パスポートに関しても、賄賂を払わなければいつまで経っても発行されないらしい。
実際、警察官の人たちも政府から数か月給料が払われないという現実があるようだ。だから、ただでさえ薄給なのに未払いが続くと、賄賂が無ければ生活できないらしい。
生きることで精いっぱいの彼らにとって汚職はあまりにも常態化しているので、従業員を雇っても会社の備品やお金を盗んでしまうというのはよくある話のようだ。だから、盗難を予防するのはもちろん、信頼できる現地スタッフを見つけるというのは、日本に比べてコストがかかる。
ただでさえ仕事のないケニアでは、募集したポジションの必須スキルが無くても嘘をついて応募してくることも多い。実際、ケニアの会社では入社してから慣れていくといった場合が多い。こうした文化の違いがスムーズな経営を阻害する可能性は非常に大きい。
国内の格差
これはリスクではなく、むしろチャンスと捉えるべきかもしれないが、サブサハラ地域の地方部は経済成長とはほど遠い。そして、数十年が経った未来の世界でも、あまり変わらないのだろうと想像する。
ケニアで都市と呼ばれる地域はナイロビとモンバサくらいで、それ以外は農村地域が広がっている。その光景は、まさにアフリカを知らない方の“アフリカのイメージ"がぴったりかもしれない。
開発から取り残された地域では、電気や水道が通っておらず、夜はろうそくを灯し、近くの水場から水を運ぶ。未だに薪で火をおこし、自分の手で一日かけて洗濯をする。日本人が訪れたら、タイムスリップしたような気分になるだろう。
都市部にある娯楽は一切存在せず、自分の農地で採った野菜や薪を売って得たわずかな現金収入で生活する。だから、食べるものはあっても、教育費や医療費を捻出するのはかなり厳しい。それくらいアフリカ各国は都市部と農村部で格差が大きいのである。
だから、大きいビジネスを始めようとしたら実質的に都市部に限られる。従業員の住環境や生活を考慮すると、駐在員や外国人スタッフを派遣できるような場所ではないし、利益を得やすい市場があるわけではない。
もちろん農村部のソーシャルビジネスで成功を収めている起業家の方もいるし、未開拓な地方だからこそ可能性があるのも事実である。あくまで、実態として地方部は都市部に比べてかなり遅れているということだけ知ってほしい。
最後のフロンティアと言われる所以
アフリカは良くも悪くも未知なる土地である。未知数の可能性を秘めていながら、突発的に未知の事件や事故が発生する。一長一短であるが、個人的にはこんなにワクワクする基盤はないと思っている。
「アフリカの水を飲んだ者はアフリカに帰る」という有名なことわざがある。
リスクを冒しながらも世界中の人がアフリカで挑戦するのは、それだけ人を引き付ける魅力的な大地なのだろう。私自身も、2年間で多くの苦労を味わいながらも、日本では経験できない日々の刺激を楽しんでいた一人だった。
アフリカでビジネスをするには、文献やコネクションを活かしながら綿密な情報収集が必要になる。でも、この土地は知れば知るほど面白い未知の可能性を秘めている。もし興味があれば、まずはアフリカのことを知ることから始めることをオススメする。
私もいつか何かしらの形でアフリカ大陸に戻ってきたい。同じようにこの大地に魅力を感じている人がいるなら、ぜひ協力して世界を良くしていけたらと思う。
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