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JICA海外協力隊から帰国後、再就職が厳しいのは本当なのか。

2024年11月16日コラム,青年海外協力隊コラム,青年海外協力隊

<コラム第12回:JICA海外協力隊から帰国後、再就職が厳しいのは本当なのか。>
「JICA海外協力隊に行くと再就職が難しい」ということは、長年の間言われ続けてきた。協力隊の苦労は、確かに民間企業の人事部の人からは理解されにくいかもしれない。

JICAも課題として認識しているからなのか、協力隊OVの進路支援にかなり力を入れている。公務員や国連の特別採用枠まで作ったり、研修やカウンセラー制度を取り入れたりと、隊員の不安を取り除くことに躍起になっている。

ただ、そもそも再就職に苦労するというのは本当なのだろうか。帰国後の就職が厳しいということはよく耳にするものの、これらは噂話や定性的な書き込みでしかなく、精度の高いデータというものは見つからない。

今回のコラムでは、実際に協力隊経験後に転職活動を行った私の経験をもとに、この定説が本当なのか考えてみたいと思う。

転職市場における協力隊経験の価値

簡単に、私の経歴と転職に至った経緯を前提として話しておきたい。

私は大学卒業後に大手コンサルファームに就職し、約5年間で6プロジェクトを経験したのちにJICA海外協力隊へ応募した。この会社はコンサル業界のイメージとはかけ離れているホワイト企業で、社内の制度として自己研鑽のための休職制度があった。

JICA海外協力隊の経験も休職制度の対象となり、全く会社から反対されることなく協力隊に参加することができた。二本松での訓練とケニアで1年8カ月コンピュータ技術隊員として活動し、一旦元の会社に戻った。この会社自体は大好きだったが、海外で働きたい、もっと経営に携わりたいという思いが強くなり、転職を決意した。

転職先に求める必須条件は、①海外駐在ポジションであること②ビジネスに携わることができることの2つだった。そのため、今回の記事は民間企業での海外駐在ポジションへの転職であることを前提に読んでいただきたい。

この条件で求人を探してみると、意外と合致するポジションは少なく、あったとしても「海外駐在の可能性あり(数年後)」とか、年収が大きくダウンするようなポジションが多かった。

一旦、年収や駐在までの時間を考慮せず、当てはまるポジションにできる限り書類を出してみた。業界や会社規模も考慮せず、駐在の可能性がありそうな民間企業にとりあえず応募していた。その結果が以下のとおりである。

項目件数
応募数17件
書類通過数13件
面接通過数受けた面接は全て通過
内定数2件(内定が2件出た時点で選考途中のものは全て辞退)

結果からいうと、営業職の駐在ポジションで内定をいただき、年収アップも実現することができた。希望通りの会社から内定をもらった時点で、残りは全て辞退させていただいたが、中には誰もが知っている難関企業で書類や一次面接を通過したものもあったため、「JICA海外協力隊だったから」という理由で就職に苦労するという話は大嘘だと思う。

少なくとも、JICA海外協力隊の経験をマイナスとして評価する企業は1社もなかった。面接は受けたものに関しては全て通過したし、書類で落ちた4件についてもこれらは全て管理職ポジションの募集だったため、私の経験とのミスマッチが起きただけだと思っている。

だから、「JICA海外協力隊に行っていたから再就職に苦労する」という定説は個人的には間違いだと思う。少なくとも企業は協力隊経験をマイナス評価することはない。だから、「就職に苦労した」と言っている協力隊経験者はおそらくその人自身にビジネスパーソンとしての価値がなかっただけだと思う。

一方で、「JICA海外協力隊がプラス評価されるか」ということについてはまた別の問題である。結果からいうと、企業によってマチマチだった。

例えば、受けていた総合商社や専門商社の面接官からは協力隊経験についてかなり深掘りされた。「どんな苦労があったか」「どのように乗り越えたか」を重点的に聞かれることが多かった。多くのカウンターを巻き込む商社マンには必要なスキルであり、そうした人材が欲しいのだろうなと解釈した。

一方で、面接中に協力隊経験に全く触れない企業はもちろんあったし、深掘りしてきた商社でさえ協力隊の経験よりコンサルでの経験を聞いてくる時間の方が圧倒的に長かった。

あくまで私の感覚だが、「民間企業がJICA海外協力隊の経験にそこまで関心がない」というのは本当なのかもしれない。まあ人事部の目線に立ってみれば当然だと思う。間違いなく協力隊の2年間より、民間企業での2年間の方がビジネススキルは向上する。よく分からない途上国で2年間も遊んできた(ように見える)人の経験を評価してくれと言っても虫が良すぎる話である。

ただ、そんな協力隊に興味がなさそうな企業でも面接には通過したのだから、結局は協力隊経験の有無に関わらず、企業の担当者はできるだけフラットな目線で評価はしてくれるのである。

東京八重洲のオフィスビル

協力隊経験者が就職に苦労する理由

前章で述べた通り、協力隊経験はプラスにもマイナスにもならないというのが私の考えである。ただ、なぜこんなにも協力隊が再就職に苦労するという話を聞くのだろうか。その理由も私なりに考察したい。

協力隊経験を過大評価している

これはもちろん私も例外ではないのだが、多くの協力隊経験者にとって協力隊での活動は人生において最も印象的な出来事になる。途上国での生活は中々経験できることではなく、このこと自体は素晴らしいことである。

しかし、協力隊で生き抜いた苦労やそれを乗り越えた記憶が自分にとって価値があるものだからこそ、協力隊経験者はこの過去を過大評価するのだと思う。あたかも、自分自身の“実績"として。

ただ、考えればわかることだが、営利企業の人事担当者にとって「営業で〇億売り上げた」とか「AIの研究経験がある」とかの方が、その人自身の能力を測りやすい。結局のところ協力隊経験というのはその人自身の自己満足であり、「利益の追求」が目的である会社の求める人材とは少し違うのである。

一方で、私は転職活動で協力隊経験を最大限にアピールした。なぜなら、協力隊経験が“能力"のアピールにはならなかったとしても、自分自身の"パーソナリティ"を伝えることにはとても便利だったからだ。私は駐在ポジションを志望していたので、「異国でのコミュニケーション能力」だったり「ストレスへの対処能力」であったり「語学力」については協力隊のエピソードを用いて説明していた。

おそらく、この部分に関しては多くの企業で評価してもらえたと思う。結局のところ、採用試験で見られていることは「過去の実績」より「今の実力」なのである。協力隊経験に縛られて、過去のエピソードを上手に話すことに執着するより、論理的に自分の能力を説明するための道具として使った方が効果的だ。

キスムのガバメントオフィスのインターン生

JICAや途上国のビジネススピードに慣れてしまっている

協力隊として派遣されたときにとても驚いたのが、JICA職員や途上国の職員たちの仕事の質の低さだった。スピード感は遅いし、資料や発言の質も低いし、何も考えずに仕事をしているのが丸わかりだった。ビジネスではない以上、競争意識や評価に捉われずに仕事をすればこうなってしまうのは仕方ないのかもしれない。

ただ、悲しいことに2年もあればそのぬるま湯に慣れてしまうのは当然で、あらゆることにおいてレベルが低くなってしまうのだと思う。例えば、採用試験1つとっても「日本語能力」をはじめ、「ロジカルな思考力」、「言語・計数能力」、「ビジネスマナー」など、途上国では不要でも日本で働くうえで必要な能力というのは間違いなくあるのである。

その点、私は復職してから数カ月間は、元の会社で仕事のスピードが慣れることができた。そのおかげか、面接のフィードバックではロジカルな話し方が理解しやすかったと毎回褒められたし、テストセンターなどで受ける筆記試験の成績も高得点だったようだ。

すぐに日本のビジネススピードに慣れるというのは中々難しいかもしれないが、人事担当者も採用が高コストである以上、プロの目で必死に評価してくる。会社や人事がどんな人を採りたいのかをしっかり考えて、面接に臨むことが重要だ。

ナイロビのBRITAM TOWER

JICAの再就職サポート支援

最後にJICAの再就職支援プログラムについて書きたいと思う。再就職に関するJICAのサポートは、かなり充実している。正直こんなことに税金を使うなよと思ってしまうが、それだけ協力隊の再就職を課題として捉えているということなのだろう。(進路支援)

私が使った唯一のサービスは、JICAが運営する求人サイト「PARTNER」である。ここには、国際協力の求人はもちろん、国際協力に携わった経験を持つ人をターゲットとした求人が集まる。最後まで応募することはなかったが、意外と民間企業の駐在ポジションの求人もあり、他の求人サイトと併用して利用していた。このサイト自体は、JICA関係者や協力隊経験者に限らず誰でも利用することができるので、興味がある人は使ってみるのも良いのかもしれない。

他にも国連のUNV制度だったり、教員や自治体職員の特別採用枠、大学や大学院の特別入試制度などもあるようだ。よほど、どこも人材不足なのだろう。カウンセラー相談などもできる充実っぷりで、何かしら使えばくいっぱぐれることはなさそうである。

実際のところ、2019年のデータでは80%以上が就職や復職・進学をすることができている。だから、協力隊が「希望した就職先で働く」ことは難しいのかもしれないが、路頭に迷うなんてことは心配しなくてよいのだと思う。

今回は自分なりにJICA海外協力隊の進路について考えてみた。あくまで民間企業への就職しか知らないが、私の経験上、協力隊経験はプラスにもマイナスにもならない。ただし、話のタネとしては役に立つ。というのが私の結論だ。この経験が協力隊を経験した誰かの進路を考えるきっかけになってくれたら嬉しい。

ナイロビナショナルパークのオスライオン

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Posted by Terabow42